「網絡"公民記者"新軍(インターネットの“市民ジャーナリスト”新勢力」

今年忙しかった理由の一つに、担当コマががらっと入れ代わり、多くの授業の準備を一からしなくてはならなかったことがある。そのうち、中国社会特講という授業では、学生にちょっと硬めの中国の総合的な時事雑誌の記事を読ませて報告させた。うちの研究室や図書館で定期購読しているも のというと『瞭望』や『新華月報』など、「官方」の(官側の立場から発行された)ものに限定されるが、それはそれで、共産党の中の少なくとも一部 の意見を反映していることが予想され、けっこう面白い。
 授業のおおよそ半分の時間を使い、週1本のペースで学生に記事の訳とキーワードを中心とした報告をしてもらい、残りの半分の時間で、その記事に関連するテーマについて僕が講義ををするという形で進めた。そこそこ難しい内容なので、学生の方も予習が大変だったと思うが(といっても人数が多いので半期に一度しか当たらない)、こちらも毎回違うテーマで講義を組み立てなくてはならず、泣くぐらい忙しかった。
 記事のチョイスは、かなりざっくりと読んだだけで選んでいるので、必ずしもベストな選択ではなかったかもしれないが、それなりに勉強になるものが多かったので、備忘のため、暇を見て読んだ記事のメモを残していくこととしたい。


程義峰・龐元元「網絡"公民記者"新軍(インターネットの“市民ジャーナリスト”新勢力」
『瞭望』2010 年第4 期(1 月25 日)
[要旨]
09年末に中国社会科学院の発表によると、過去一年間で社会的に大きな反響を呼んだ事件の内、30%がインターネットで先に公開・暴露されてから一般の関心を引き起こした。これは、インターネットがすでに主流の媒体を補足する重要な存在となっていると同時に、一般人の社会参加の意識が向上していることを示している。
 電子メールやMSN、QQ、ブログや「微博」(中国版ツイッター)の出現にともない、「市民ジャーナリスト」が大量に出現し、重大事件が発生した際には一定の意見群を形成している。ネット上の民意にどのように対応し、政府の関連部門の管理能力を向上させることは焦眉の課題である。
 米『フォーブズ』によれば、インドのムンバイのテロ事件の際、最初の襲撃から5秒の内に、Twitter上には80の情報が出現した。Twitterなどでは、透明で自由な輿論環境、ユーザーの平等な発言権により、一定の「自浄」作用があり、「疑わしい」情報が発信されると、あっという間に他人に批評されたり訂正されたりする。
 しかし、大量の情報が留保なく公表されることには、安全上の疑問もある。例えば、ホテルに立てこもったテロリストに警察の状況を教えることもできる。こうしたソーシャルネットワークの開放性は諸刃の刃であり、自浄作用だけでは不十分である。
 インターネット研究者の馬暁霖によれば、最近一年来、政府の管理部門が不良情報サイトを強制的に閉鎖していて、これ自体は必要なことだが、管理のやり方が粗暴になりすぎると、ネットワーク産業全体の発展に対してマイナスの影響があり、また、管理部門自身のイメージの構築にも益がない。
 政府の管理という角度からすると、「エイズ女」のような虚報で社会不安を巻き起こすような件については、法律に基づいて処置しなくてはならない。政府の高官(「国家領導人」)も、各級政府は宣伝部門への報告の必要はなく、主体的に対応し、事実の情報をすぐに明らかにしなければならないことを強調している。

[コメント]
 ツイッターが政府によってアクセス禁止にされているのに、「共産党の喉舌」ともいうべき国営の新華通訊社から出ている雑誌でツイッターの効用を謳いあげているというのが中国の面白いところだ。もちろん、政府の情報統制を正面きって批判することは出来ないが、引用などの形で「宣伝部門」(悪名高き中央宣伝部の婉曲表現であろう)を牽制するようなことを書いているところも面白い。よくあるインターネット市民社会論のようでもあるが、中国の、そして政府サイドの刊行物であるという特殊な文脈に置いてみると、興味深いものがある。

「デジタル化時代の中国労働者―珠江デルタの新世代(農)民工と携帯をめぐる言説から―」

村井寛志「デジタル化時代の中国労働者―珠江デルタの新世代(農)民工と携帯をめぐる言説から―」(『神奈川大学評論』67、2010年)
  はじめに
  一 新世代(農)民工とは
  二 新世代民工の消費活動をめぐる言説と携帯
  三 新世代民工のライフスタイルの中の携帯
  四 若年労働者の「孤立」をめぐって
  五 おわりに

「はじめに」より
 香港の後背地として発展し、広州・深圳・東莞などの都市を抱える珠江デルタは、パソコンや電化、自動車産業を始めとして、多くの外資系工場が集まる、世界的にも有数の巨大な産業集積地帯として知られる。今年(2010年)五月、この地域の労働について、日本でも話題になる事件が起こった。広東省仏山にあるホンダの部品工場で起こったストは、ホンダの系列の他の工場にも波及し、一時は全生産ラインをd中止に追い込んだ。ストの風潮は、その後遠く離れた大連など、他の都市の日系企業にも広がり、中国進出企業に大きな衝撃を与えた。
 とはいえこれらのストライキ自体は本稿のテーマではない。筆者にとって興味を惹かれたのは、これらのストライキとの関連でしばしば言及された、その主力となったとされる八〇年代生まれ(「八〇後」)の新しい世代の農村出身労働者(「新世代(農)民工」)の意識・価値観の変化や、彼/彼女らが携帯やインターネットなどのデジタル・メディアを駆使して運動を展開したということであった。
 後者について言うと、携帯やインターネットを通じて大勢の人々が集まって集団的示威行動を行うという点は、〇五年や今年(一〇年)の反日デモやその他の群衆による抗議行動(「群体性事件」)とも共通し、主流メディアにおける情報流通に対する管理の厳しい中国における、これらデジタル・メディアの影響力の大きさを示している。
 とはいえ、中国のデモやストとデジタル・メディアの関係を強調する報道を目にする時に、一方で筆者の頭には、それとは対照的な、日本におけるデジタル・メディアをめぐるある風景が浮かぶ。二〇〇七年一月にNNN系列で放映されたドキュメンタリー「ネットカフェ難民・漂流する貧困者たち」は、「ネットカフェ難民」という言葉が流行するきっかけとなった。そこに登場する若者たちの日雇い仕事の風景は、携帯メールに送られてきた派遣の仕事に向かい、同じ現場で働く他の者とは必要以上のコミュニケーションもなく、仕事が終われば解散する、といったものであった。かつて高度経済成長期、日雇い労働者の求人が集まる「寄せ場」にはドヤ街という形である種のコミュニティが形成されたのとは対照的な、現代の孤立した日雇い労働の状況がここにある。
(中略)
 新世代(農)民工と呼ばれる、単純労働に従事する中国の若者たちのライフスタイルや意識の変化もまた、しばしば携帯やインターネットなどのデジタル・メディアと関係付けて語られている。本稿では上記の点を考慮しつつ、主として既存の報道や研究などから垣間見える情報をピックアップしつつ、新生代民工に対する支配的なイメージから見逃されがちな点について考えてみたい。

神奈川大学中国学会 2010年(第11回)度研究発表大会

神奈川大学国学会 2010年(第11回)度研究発表大会
 日時: 2010年12月17日(金) 14:30〜17:00
 場所: 横浜キャンパス 20号館4階453教室

1)「中国語疑問文の運用研究―インタビュー番組の事例分析―」
    石川由里子 (神奈川大学大学院・修士課程)

2)「戦後日本と華僑社会(1945-1949)―経済的側面―」
    菅沼若菜 (神奈川大学大学院・修士課程)

3)「揺らぐ「国家像」―戦後中国人留学生の在日生活空間―」
    田 遠 (神奈川大学大学院・修士課程)

4)「“給”構文の意味と論理」
    張 仲霏 (神奈川大学大学院・博士課程)

5)「中国的语言--汉语和侗台语的亲属关系-- 」
    黄 勇 (神奈川大学 特任准教授)


            会の終了後、懇親会を予定しています。

  神大へのアクセスは、下記のサイトをご参照下さい。

     < http://www.kanagawa-u.ac.jp/access/ >

中国公民社会研第3回例会の御案内

11月のテーマは馬場公彦『戦後日本人の中国像―日本敗戦から文化大革命・日中
復交まで―』のレビューです。
 
日時: 11月26日(金)18:00開始
場所: 神奈川大学横浜キャンパス20号館 417A
報告者:
 本田親史さん(明治大学・法政大学兼任講師、東アジア・メディア研究)
 原正人さん(明治大学ほか兼任講師、中国近現代思想史)

 前半を本田さん、原さんが後半を主に扱うということですが、論点としてはど
ちらも全体的なものになりそうだとのことです。

※会場へのアクセス
http://www.kanagawa-u.ac.jp/access/

 ウー・ウェンさん講演会のお知らせ

 神大フェスタのイベントの一環として、31日(日)、NHKきょうの料理』や日本テレビ『3分クッキング』などでおなじみの料理研究家ウー・ウェンさんをお招きして、「食文化を通じた日中交流」と題して講演をお願いしています。
 参加無料・予約不要です。皆さまのご参加をお待ちしております。

10月31日(日)

時 間:14:00−15:30
場 所:神奈川大学横浜キャンパス 20号館310室
講 演:ウー・ウェン氏(料理研究家
    「食文化を通じた日中交流」

主催
お問い合わせ 

神奈川大学国語学
電話:045-481-5661(代)内線:4525

〈http://www.kanagawa-u.ac.jp/community/lecture/2010/10/14/002598/〉

神奈川大学(横浜キャンパス)へのアクセス
交通アクセス|神奈川大学

 10月(第2回)例会案内

 下記に会合を持ちます。

◎日時:10月22日(金)18:00開始
◎会場:東洋文庫(財)東洋文庫 イスラーム地域研究・現代中国地域研究資料室
(詳細は案内末尾にあり。「文京区本駒込」の本館の方とは違う場所なのでご注意下さい)。

◎報告
大橋史恵さん「1995年以降の女性運動――婦女聯から草の根まで」
高原基彰さん「中国の地方出身高学歴ワーキングプア―『蟻族』のレビューから」

高原報告概要
サービス業・販売業・ウェブ管理など、都市の流動的低賃金部門に流入した地方出身の大卒者たちの集住地域を取材した『蟻族』のレビューを通し、大学改革や各種の青年問題など、その背景を探る。

◎会場詳細:
〒170-0003 東京都豊島区駒込1-3-1 メリノ六義園ビル5階
電話:03-3942-0146
会場は、http://www.tbcas.jp/ja/access.html
2枚地図がありますが、下の方の地図「事務所所在地」の方です。
「文京区本駒込」の本館の方ではありません

研究会のお知らせ

各位
 直前のお知らせになってしまいましたが、下記の研究会というか、読書会のようなものをやります。
 公民社会、公共圏、市民運動などを主たるキーワードとしつつ、現代中国、あるいは中華圏の研究者、著述家による理論的著作を消化することを目的 とした研究会を始めることになりました。当面は小規模な読書会形式で、たまに少しオープンな研究会を行うといった形になるかと思います。ご関心の ある方はどち らも参加歓迎です。
 とりあえず第1回は、しょっぱなから上記テーマに直接関わるというよりは背景的な話になりますが、下記の要領で行なう予定となっています。
 会場の都合があるので、ご来会予定の方はなるべく事前にお知らせ下さい。

日時:9月25日(土) 午後1時開始
会場:東洋文庫(財)東洋文庫 イスラーム地域研究・現代中国地域研究資料室
    (詳細は下記。「文京区本駒込」の本館の方とは違う場所なのでご注意下さい。

内容:
1.本田親史
温鉄軍(丸川哲史訳)『中国にとって、農業・農村問題とは何か――〈三農問題〉と中国の経済・社会構造―』(作品社、2010年)のレビュー

2.村井寛志
 馬杰偉『酒吧工廠―南中国城市文化研究―』(江蘇人民出版社、2006年)の民工 の文化消費に関わる部分を中心にしたレビュー
  今年に入り、広東省の労働者のストについて日本でも話題になっており、かつ、携帯やインターネットなどのニュー・メディアの介在という“新し い”状況が注目されています。しかし、そもそも農村や地方都市から大都市に流入する労働者たちにとって、都市で働くといういうことはいかなる意味 を持っていたのか。広東省に隣接する香港の文化研究者の視点を手がかりに考えてみたいと思います。(村井)

※今回は来られないが、継続して案内をご希望の方は、お知らせ下さい。また遠方でなかなか参加できないが案内は欲しいという方もお知らせ頂ければ リストに登録します。
 
◎会場詳細:
〒170-0003 東京都豊島区駒込1-3-1 メリノ六義園ビル5階
  電話:03-3942-0146
  会場は、http://www.tbcas.jp/ja/access.htmlの ページの下の地図「事務所所在地」の方です。「文京区本駒込」の本館の方ではありません。