村井寛志・張翔・大里浩秋・小林一美『中国と日本―未来と歴史の対話への招待―』

村井寛志・張翔・大里浩秋・小林一美『中国と日本―未来と歴史の対話への招待―』(御茶の水書房神奈川大学入門テキストシリーズ〉、2011年)

 下記部分を担当しました。
「はしがき」
「第1章 中国の「格差」」を多面的に考える」
  はじめに
  1.「中国は崩壊するか?」から「中国は日本経済の救世主になりうるか?」
  2.「中国」は一樣ではない
  3.格差をどう考えるか
  4.格差と少数民族問題
  5.市民の権利意識の向上
  おわりに

 高校生〜大学1年生くらいを対象としたブックレット形式の入門書です。入門書ということで、できるだけフリガナを多くしたので、漢字が多いと苦手という人にも良いかも?

第1章より

はじめに
 仕事柄、中国に関するテレビや新聞の報道はなるべく欠かさずチェックするようにしているのですが、最近は中国関係の報道を目にしない日はほとんどありません。中国が今話題の的です。しかし、そこで話題になるのは「中国はもうすぐ崩壊する」だとか、「中国が世界を支配する」とか、極端なものも少なくありません。もうすぐ崩壊しそうな国が、どうして世界を支配できるんでしょうか。あるいは逆に、中国に好意的な報道では、ただただ中国の発展はすごいと褒めちぎってますが、同じ番組、あるいは雑誌で1年前には「中国はヤバイ」とかいう特集を組んでいたのが、まだ記憶に新しかったりします。どちらかが嘘をついていたのでしょうか。
 中国に批判的なものにしろ、好意的なものにしろ、世間で流通するものの見方は一面的であることが多いように見えます。中国に限らないことですが、物事を現実に即して捉えるためには、良い面、悪い面というだけでもなく、それらが複雑に交差した、多面的なものの見方が必要です。この章では、中国に対する批判としてよく言及される「格差」を題材に、こういった問題を考えてみようかと思います。

1 「中国は崩壊するか?」から「中国は日本経済の救世主になりうるか?」へ
 これを書いている2010年2月現在だと、日本における中国関係報道は、今年(2010年)中に中国の国内総生産GDP)が日本を抜き、世界第2位の経済大国となることがほぼ確実だとみられている、という話題で持ちきりです。
 思い起こせば、おととし(2008年)は北京オリンピックの年であったにも拘わらず、四川大地震チベット暴動に加え、オリンピック前から見られた景気後退の兆しなどもあり、マスメディアが流す中国関係報道は総じてネガティブなものが目立ちました。当時は中国経済、あるいは中国そのものがまもなく崩壊する、などといった論調が多数登場し、『中国が崩壊する日』、『中国大崩壊』などといった中国(あるいは中国経済)の崩壊をタイトルに掲げた書籍がたくさん登場しました。これらの多くは興味本位にショッキングなタイトルを掲げているにすぎませんが、少なくとも一部の日本人が中国に対して持つ感情を反映しているように思われます。
(中略)
 このように、中国に対するメディアの論調は、景気の動向によってころころ変わります。昨年来の中国の経済回復には様々な問題点も指摘されていますし、その行方次第ではまた180度変わるかもしれません。しかし、短期的な景気動向にかかわらず、長い目で見れば、日本、あるいは世界の政治・経済の中で中国が持つ存在感が日に日に大きくなるのはほぼ間違いないでしょう。この大きな隣国について、単にお金持ちが増えて日本製品を買ってくれるかもしれない、という安易な期待だけでもなく、かといって、やっかみ的な批判や悪口を言うだけでもなく、中国が抱える可能性と問題の双方をきちんと見て行くことが求められているように思われます。
(下略)

 諸々の事情から、書いてから出るまで1年経ってしまったが...