呉軍華「中国的改革―官製資本主義の隆盛とその行方―」

以下、しばらく前に読んだ論文のメモ。

呉軍華「中国的改革―官製資本主義の隆盛とその行方―」(『東亜』2009年2月号)の要約&抜粋。
 1992年以降を改革開放の第二段階とし、92年以降を官有経済化として捉えている。90年代後半の国有企業改革は、国有企業で大胆なリストラが進められたことで知られるが、実は、「採算性の悪い川下の中小国有企業の清算が急速に進められる一方、エネルギー・原材料や金融、通信、鉄鋼といった川上の基幹産業部門で、国有企業、なかでも「央企」と呼ばれる中央政府所管の国有企業による独占・寡占化が大きく進展した。国有企業をこのように再編した後、「官」はさらに優遇税制の付与や価格統制などを通じて、産業利益を国有の独占・寡占企業に集中させる構造を作り上げた」(p.40)。

「「官」、なかでも地方政府主導のもとで、90年代末以降の中国において、空前の投資ブームが巻き起こった。」
 →産業の重化学工業化の進展。エネルギー・原材料に対する需要
 →世界のエネルギー・原材料市況の高騰をまねき、投資主導型の中国の経済成長にブレーキをかける(p.42)。

「一方、国内消費需要の拡大の裏付けがないまま、「官」主導のもとで形成された膨大な生産能力を消化するために、中国経済の輸出依存度が急速に高まった。」

 中国政府は、景気低迷の中、投資・輸出主導型の成長モデルを改め、消費の拡大を中心とする内需主導型の成長モデルへの転換を政策課題として打ち出す。
 しかし、実は98年からすでに投資・輸出主導型成長モデルの限界は認識されていた→にもかかわらず投資・輸出に対する依存度が高まったのは、「官有経済」化が進み、家計部門の消費の拡大を大きく妨げているから。
 消費主導型の経済成長への移行が困難な理由は、一般には中国人の貯蓄志向が強いことが挙げられる。しかし、この点においても、最も速いペースで貯蓄を伸ばしているのは実は政府部門である。

 「官有経済」が経済成長の持続の大きな障害になっている。改革を「官製資本主義」の罠から脱出させるためには、国有企業の独占・寡占問題を解決することによって本格的な市場経済化を遂行するとともに、一党支配から民主的な政治体制への移行を目指す抜本的な政治改革も避けて通れない。

 以下、若干のコメント。
 恐らく、国有企業という狭義の問題に話を限定せず、何らかの形で地方政府の権力構造と密接にかかわって展開している企業全体に当てはまる問題のように思われる。同じ『東亜』の3月号所収の高橋五郎「中国農業産業化と企業の土地支配」に出てくる話とかも、この文脈で読めるんじゃないかと踏んでいる。
 改革開放も30年が経ったわけだが、この間の歴史を、市場経済の導入による経済の“自由化”という方向からのみは捉えられない。
 昨年の「バブル崩壊」以降、内需振興にやっきになってる中国だが、投下される予算がある程度均等に行き渡るようなシステムが整っているようには思われないので、地方の利権構造を強化するだけになってしまうのではないかという懸念がぬぐえない。
 問題は、共産党は欧米型民主主義観から見られるような“独裁”というイメージとは全然違って、膨大な厚みを持つ地方の利権構造とかの調整の上にその統治が成り立っているわけで、単に欧米型の“民主主義”を導入するだけで解決するように思われない、という以前に、そもそもこういう構造でがあるから、そういう方向にはなかなか進めないだろう。
 まとめがうまく付けられないのだが、いずれにせよ、批判だけしていれば片付くという問題でもないし、万一中国の構造上のきしみが爆発してしまうような状況になれば、我々の社会も対岸の火事というわけにはいかないということを銘記し、ともに考えていく必要があるのだろう。