裏読みとしての反日―反日デモその4

中国の反日デモ、取りあえず収まりそうな気配だ。仕事の関係上、あまり長引いてもらうと困るのだが、(香港以外で)破壊的でない形のデモを一度くらい成功させて欲しかったような気もするし、複雑な気分だ。安全圏でこんなことを言うのは無責任かもしれないが、抑えられた感情が、料理店やタクシーでの嫌がらせなど、陰湿な方向に向かっているという目撃談を耳にするので、それくらいだったらもう少し公開的な形で不満がぶちまけられるような機会があった方がいいとは思う。

反日のデモの件について、当初もっと頻繁に更新する予定だったけど、中国滞在中の人たちが書いているブログがなかなか面白く、日々の生活の中から得られる情報の量が違うので、刻々と変化していく状況のレポートとしては、とてもかなわないというのが正直な感想。とはいえ、振り返って色々考えたこともある。
今回のデモ、従来のそれに比べて大規模なものになったとはいえ、色々なレポートを見ていると、荒れ狂ったのはほんのごく少数の人々という印象はぬぐえない。が、一方で、北京や上海で留学していた人のブログなどを見ていると、暴力行為はともかくとして、日本への抗議という一点に関しては、共感している層がそれなりの広がりを持っているように見えた。
もちろん、日本にもあるような、例えば凶悪犯罪の犯人の家族に対し嫌がらせが殺到するという状況が、中国にも少なからず存在するであろうことは想像が付くが(「悪い奴(日本人)」に対しては何をやっても許される)、それはそれとして問題だが、デモの参加者の大部分を占める学生たちの感覚とは、少し位相が異なるように思われる。
週刊東洋経済』(2005年4月30日・5月7日合併特大号)の加藤嘉一氏の文章に、彼が会話した北京大生に多かった反応として、「日本(政府?)が何を考えているのかが分からない」という点が挙げられていて、興味深い。終戦60年目、常任理事国入りを狙っている時期に、靖国や教科書などで隣国の反発を招くという「非合理的な」動きを取っていることが不気味と映っているということのようだ。中国関係の専門家でも何でもない内田樹氏の指摘(4/10付けブログ)をそのまま裏付けるような内容だ。
 日本でも、中国が歴史認識のような、現在の直接的利害に関係なさそうな問題にいつまでもこだわるのは、領土領海問題などの他のもっと実利的な事柄で日本に譲歩させる狙いだ、と解釈する向きが存在する。しかし、僕の経験上、多くの中国人にとって先の戦争が「侵略戦争」であることは既に固まった事実であり、彼らの見方からすれば、逆に日本が近年それに対し挑発的な態度で挑んできている、という風に映っているような印象がある。そうした視点からすると、日本が歴史認識のような一銭の得にもならない点にこだわるのは、理解できない、背後に何か思惑でもあるんじゃなかろうか、常任理事国や台湾問題への関与、領土問題などもそうした線から解釈できる、ということになるのだろう。(歴史問題で譲歩したら他の点でも日本が中国の利権を侵害してくる?)

 中国の学生の情報源としてインターネットは非常に大きな位置を占めているようだが(「老大(らおだー)」氏のブログの記事が参考になる)、日本でもネットのヘビー・ユーザーに広範に見られる態度の一つとして、マスメディアが流す情報の“裏読み”を好むという点が挙げられる(だから田中宇のメール・マガジンがうける?)。もちろん、この裏読みはどんな方向にでも向かうわけではなく、受け手の側の都合のいい願望によってその方向性が大きく作用される、という見方も可能だろう(だから日本に関しては悪い方の裏読みのみが出回る?)。中国の若者たちによる“裏読み”が今後ういう方向に向かうのかは分からないが、取りあえず、愛国主義教育に流されているだけ、というような単純な見方ではない視点が必要なように思われる。