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 マレーシア、ヌグリ・スンビラン州華人新村についての聴き取り調査の2回目をやってきました。

 マレーシアに興味を持ったのは、10年くらい前にアジア農村研究会の企画でマレー人農村を訪れたのがきっかけ。自身マレー語ができないので、通訳を通しての聞き取りにストレスが溜まっていたのだが、さぼって近くの華人集落にぶらっと行ってみたら、そこの住民たちが、元々調査していたマレー人集落のすぐ近くに住んでいたことを話してくれた。1940年代末、マラヤ共産党ゲリラ対策として、「新村」と名づけられた柵で囲われた土地に住まわされ、その名残が現在まで残っているというわけなのだが、マレー人からの聴き取りの中ではそういった話がかけらも出ていなかったので、隔絶ぶりにすごく驚いた。
 そもそも華人集落で標準中国語が普通に通じた(かなり癖があったけど)こと自体にも驚いていたくらい何も知識がなかったのだが、とりあえずマレーシアの複合社会的な様相が、現代政治史と密接な関係を持ちながら形成されたということに、強く興味が惹かれた。

 とはいえ、当時は大分違うことを研究していたし、さすがにマレー語ができず、マレーシアに関する常識もないのに研究しようとは思わなかったので、問題意識が深まることもなくそのまま忘れていた。
 ところが、ここ数年華僑華人史自体に興味を持つようになってきたことから、昨年3月にマレーシア史を研究している後輩と会った際、マレー語ができる人間と中国語ができる人間で、共同で冷戦初期のマレーシア華人村落の経験についての聞き取りとかやったら面白いかもね、などと半ば冗談で言ったら、むこうもかなり乗り気になってきたので、この後はとんとん拍子に話が進み、昨年9月の予備調査、及び今年8月の2回目の調査が実現した次第。
 去年は、こんなの本当に調査になるのか、てな感じでしたが、おかげで大分感触がつかめたし、一定の進展はあったと思う。とりあえず、心の赴くままに行動していて、そこから何を引き出すかということはこれからの課題なのだけど、それを考えるためにも、中間段階の思考をまとめていかないといけない。